サム・スミス『Hazel Eyes』感想・ディスクレビュー|傷ついた心を癒す、古き良き音楽への回帰

傷ついた心を癒すような歌声と、古き良きドゥーワップ、ゴスペル、そして温かなクワイア。
サム・スミスが約3年ぶりとなる5作目のアルバム『Hazel Eyes』をリリースした。
前作『Gloria』とはまったく異なる方向へ舵を切りながら、聴き終えて感じるのは「これこそサム・スミスだ」という不思議な安心感。古典的でありながら新しい、『Hazel Eyes』の魅力をレビューしていく。
サム・スミス、3年ぶりのアルバム『Hazel Eyes』
『Hazel Eyes』は、サム・スミスが現在拠点とするニューヨークへの深い愛情を込めて制作した5作目のスタジオアルバム。
感情の揺らぎ、自己表現の自由、そして内省をテーマに、長年のコラボレーターで親友でもあるサイモン・オルドレッドらと制作された。
『Gloria』で新しい自分を解放したサム・スミスが、その自由を手にした先で「自分は本当は何を歌いたいのか」と向き合った作品とも言えるだろう。
キャリアの中でも異質の光を放つ『Unholy』とは真逆な仕上がりに
世界的大ヒットとなった「Unholy」のようなダークなエレクトロニック・ポップを期待すると、『Hazel Eyes』のサウンドには驚かされる。
アコースティックギター、ピアノ、余韻を残すエレキギター、そして人間味あふれるクワイア。本作では電子的な派手さよりも、“声”と“生楽器”が前面に押し出されている。
それなのに、どこを切り取ってもサム・スミス。流行を追いかけるのではなく、自らの歌声そのものを主役に戻したアルバムだ。
古き良きドゥーワップとゴスペルへの回帰
『Hazel Eyes』を聴いて強く感じるのが、古き良きアメリカン・ミュージックへの愛情だ。
50年代〜60年代を思わせるドゥーワップ、ソウル、ゴスペルの温もりを残しながら、現代的なプロダクションへ自然に落とし込んでいる。
特にクワイアの使い方が素晴らしい。サム・スミスの圧倒的な声量とコーラスが重なった瞬間、アルバム全体が教会や古い劇場のような荘厳な空間へと変わっていく。
『Hazel Eyes』は傷ついた心を癒すアルバム
本作を聴いて最も印象に残ったのは、とにかく“優しい”アルバムであることだ。
悲しみや孤独を大げさにドラマチックに描くのではなく、その感情のすぐ隣に座って、静かに寄り添ってくれる。
サム・スミスの歌声が持つ本来の魅力とは、聴く人の感情に直接触れられることだった。『Hazel Eyes』は、その原点を改めて思い出させてくれる作品だ。
「Hazel Eyes」|タイトルトラックが捉えたのは変わらないサム・スミス
アルバムタイトルを冠した「Hazel Eyes」は、まさにサム・スミスらしさが凝縮されたナンバー『Hazel Eyes』
優しく始まった歌声が徐々にスケールを増し、バックを支えるコーラスと重なることで、壮大で温かなサウンドへと広がっていく
「Moondance」| カナダのSSWファイストを迎えたコラボ曲
互いの声の質感を生かした落ち着いたアレンジが心地よく、アルバム序盤に独特の温度感を与えている。
主張し合うデュエットではなく、二つの歌声が寄り添いながら一つの景色を作っていくような仕上がりが美しい。
「My Guy」|一聴で虜になる、本作屈指のアンセム
特筆すべきは、本作のファーストシングル「My Guy」。
サム・スミスの最大の武器である“歌声”に真正面から魅了されるナンバーで、初めて聴いた瞬間から耳を奪われる。
聴く人の心を包み込み、傷ついた感情さえ癒してしまう。個人的には『Hazel Eyes』という作品の魅力を一曲で表現するなら、この曲を選びたい。
「When He’s Gone」|クワイアとの掛け合いに魅了
続く「When He’s Gone」では、サム・スミスとクワイアによる掛け合いが印象的だ。
一人の声から始まった感情が、次第に多くの声へと広がっていく構成が素晴らしい。
『Hazel Eyes』が単なるバラードアルバムではなく、“人間の声そのもの”を楽器として楽しむ作品であることを実感させてくれる。
「Love Is A Stillness」|2分弱に凝縮された癒し
「Love Is A Stillness」は1分55秒という短い楽曲ながら、本作でも特に心に残った。
静寂の中から聞こえてくるような歌声は非常に繊細で、まるでリスナー一人ひとりに語りかけているようだ。
大きな展開を作らなくても、歌声だけで感情を動かせる。サム・スミスというシンガーの力量を改めて感じる一曲だ。
「Sugar Rush」|古き良きドゥーワップに魅了される
アルバムの中でも特にサウンド面で面白いのが「Sugar Rush」。
古き良きドゥーワップを感じさせる甘いコーラスとクラシカルなポップスの感触が、『Hazel Eyes』の“時代を超えた音楽”という世界観によく似合っている。
懐かしいのに古臭くない。サム・スミスが過去の音楽を模倣するのではなく、自分自身のポップミュージックへと昇華した完成度の高い一曲だ。
「Hold On」〜「To Be Free」|ラスト2曲は拍手喝采
そして『Hazel Eyes』の終盤ラストを飾る「Hold On」と「To Be Free」。
アルバムを通して描かれてきた愛、痛み、内省、そして癒しが、最後の2曲で一気に結びついていく。
特に「To Be Free」の静かで美しい歌声には圧倒される。派手なフィナーレではなく、“歌うこと”だけで作品を締めくくる潔さに、思わず拍手を送りたくなった。
サム・スミス Hazel Eyesおすすめ楽曲
特に聴いてほしいのは、「Hazel Eyes」「Moondance feat. Feist」「My Guy」「When He’s Gone」「Love Is A Stillness」「Sugar Rush」「Oh Mother feat. The TwoCity Chorus」「Hold On」「To Be Free」。
一曲だけ選ぶなら「My Guy」。アルバム全体の世界観を味わうなら「Hazel Eyes」、ドゥーワップ好きなら「Sugar Rush」、サム・スミスのバラードを堪能するなら「To Be Free」がおすすめだ。
『Hazel Eyes』収録曲
- Everlasting Love
- Hazel Eyes
- Moondance (feat. Feist)
- My Guy
- When He’s Gone
- Thief
- Love Is A Stillness
- Sugar Rush
- Oh Mother (feat. The TwoCity Chorus)
- Constant Companion
- Hold On
- To Be Free
『Hazel Eyes』基本情報
アーティスト:サム・スミス
アルバム:『Hazel Eyes』
発売日:2026年8月21日
収録曲:全12曲
アルバム尺:約45分
ゲスト:ファイスト、ザ・トゥーシティ・コーラスほか
傷ついた心を癒す『Hazel Eyes』
『Hazel Eyes』は、『Unholy』のような強烈なインパクトでリスナーを圧倒するアルバムではない。
ドゥーワップ、ゴスペル、アコースティック、クワイア。そして何より、サム・スミスという稀代のシンガーが持つ“声”の魅力を、じっくり味わうための作品だ。
古典的でありながらサム・スミスらしく、切なくありながら温かい。傷ついた心にそっと寄り添い、最後には少しだけ前を向かせてくれる。
5作目にして原点回帰、そして新境地。『Hazel Eyes』は、サム・スミスが「自分らしく歌う自由」を手にしたからこそ完成した、優しく美しい一枚だ。



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